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環境共生学部 髙橋浩伸教授デザイン(基本設計)の「つどい処 まつだ」を含む天草市【崎津・今富の文化的景観整備】に関する景観づくりが2022年度「グッドデザイン・ベスト100」を受賞

環境共生学部 髙橋浩伸教授がデザイン(調査・企画・基本設計)した「つどい処 まつだ( Gallery まつだ)」を含む、熊本県天草市 【﨑津・今富の文化的景観整備】に関する景観づくりが、2022年度「グッドデザイン・ベスト100」を受賞しました。

受賞内容の詳細は、下記から

https://www.g-mark.org/award/describe/54282?token=sz7kgYNctz

設計主旨

 海と山に囲まれた狭隘な土地に形成された密集型漁村集落の天草﨑津集落。そのランドマーク的な﨑津教会の正面に位置する道路沿いに「Gallery 﨑津(つどい処まつだ:旧松田邸)」は建設された。この旧松田邸は所有権が市に移譲された空き家となっていた。

 キリスト教関連文化遺産として世界遺産登録を目指すこの﨑津集落において、空き家問題は深刻であり、このような空き家を活用し、世界遺産登録後の観光客増加に対する施設が計画され、市民ギャラリー+休憩所としての整備が考えられていた。当初は改修案が検討されたものの、2016 年4 月の熊本地震によって、耐震性・耐久性などに不安があるため、天草市は改築を決定した。

 世界遺産を目指す地域に限らず、今日の建築・空間創造を考えた場合、人々の記憶や歴史を繋ぐ空間づくりが必要であろう。普遍性・国際性を謳った近代建築と同じ轍を踏まぬよう、地域性や場所性の重要度が増している。そこで、この計画に当たり計画地の面する道路沿いの街並み景観に影響の大きいとされる建物外観の色と建物の規模を調査した。この周辺は、景観形成基準を制定しているが、それ条例制定以前の建て替えなどにより、現代的で無表情な街並みへと変貌しつつあることが明らかにされた。

 改修工事は、構造的な耐震性や経済的な耐久性を考慮しながら、極力既存の家屋の形や色を残しながら、人々の記憶や歴史を繋ぐ空間づくりが比較的容易に実現できるが、既存家屋を解体除去し、すべてをリセットした上で新たな空間を創造する改築工事となると、人々の記憶や歴史を塗り替えかえる可能性が大きくなり、地域性や場所性の無い空間が創造される危険性がある。そこで、今回の改築案に関してのテーマは、人々の記憶や歴史を繋ぐ空間づくりを行うための「埋没されたデザイン」とした。潜伏キリシタンの歴史や密集型漁村集落としての周辺の景観や環境、また更に人々の記憶の中に埋没し、決して現代的多様な主張を行わないデザインとし、それを実現するためのデザインコンセプトを、1.「景観の継承」、2.「記憶の継承」、3.「歴史・文化の継承」、4.「コミュニティの形成」とした。

建物外観は、既存建物と同様の中2 階(厨子2階)の虫籠窓の町屋型式を継承し、「景観の継承」と「記憶の継承」を実現している。この中2 階を吹抜けとしたギャラリーは、﨑津教会のゴシック様式の垂直性を暗示し、この計画地で唯一﨑津教会天主堂上の十字架が見える場所に椅子が置かれるなど、潜伏キリシタンの歴史を持つこの地域の「記憶の継承」と「歴史・文化の継承」を演出している。

 また、この地域の特徴的景観形成要因としてとして「トウヤ※1」と「カケ※ 2」がある。ギャラリーの展示空間の列柱は、この「トウヤ」の界隈性や狭隘性を表現したもので、人々の「記憶の継承」と「歴史・文化の継承」を暗示させる。ギャラリー内には、この計画地の中で唯一﨑津教会天主堂上の十字架が見える場所に椅子が置かれ、床タイルの十字を暗示させる色区分と合わせて、隠れキリシタンの歴史を持つこの地域の「歴史・文化の継承」を演出している。またこの床タイルの色分けは、展示方法のバリエーションに応じ、観覧者の位置確認と出入り口の方向を示すという機能性も備える。

 前面道路に面する西側部分には、ギャラリーへの客の誘導を兼ねた休憩スペースを設け、世界遺産登録と同時に増加が期待される観光客の「コミュニティの形成」の場を創造している。密集型漁村集落のため、周辺の街並みでは、このような軒下空間のオープンスペースは見られないが、公共的施設として人が集まる場を創造したいと考え、このようなオープンスペースを確保した。ただし周辺の景観に考慮し、軒先を周辺建物に合わすと同時に、休憩スペースの目隠しの役割を担った柱を@455mm で連続して建てることで、壁面として周辺街並みの壁面とも揃えるなどの配慮を行っている。  建物東側には、「海」を暗示させる割栗石を敷き詰め天満船を配置した部分と「山」を暗示させる植栽を施した築山を計画していたが、南側隣地の空き地を市が今後整備することが決定し、その空き地との繋がりを考慮するためこの計画は一旦保留し、今後の空き地の利用計画にて再検討することとなっている。

 熊本県立大学 髙橋 浩伸